
今日は、2020年8月9日、長崎原爆投下された日。
映画「この世界の片隅に」についての話。
1945年8月6日午前8時15分広島へ、そして8月9日午前11時02分長崎へ、この世で最も恐ろしい原子爆弾が投下されました。そして8月15日終戦を迎え、今年で戦後75年になりました。親戚の中にも戦争経験者は少なくなりました。
昭和48年生まれの私の世代も、戦争は遠い昔の事という認識でしたが、今の人達にとっては、もっと昔の昔話として、実感の無いものとなって来ているのかもしれません。また、世代により平和や戦争について学んでいる内容も違って来ていると思います。
私が子供の頃は、戦争・原爆の事などは、先生や平和授業、テレビ等のメディア、そして漫画「はだしのゲン」などで、その恐ろしさや悲惨さ、悲しみについて学んでいました。現在「はだしのゲン」も一部の地域では図書室などに置かれなくなっているそうです。
内容の過激さや、幼少期にあたえる影響などで、クレームが入ったからだそうです。しかし、この日本で75年前に実際に起こった出来事です。その悲惨さや事実を、生き残った日本人は知っておくべきだと思っています。
そして、最近でも終戦の日になれば、テレビメディアで「火垂るの墓」などのクオリティの高いアニメ映画が放映され、世代を超えて涙して観ていました。
その中で、最近ヒットした作品「この世界の片隅に」の上映を見てきました。映画館で観たのは少し前になりますが、2016年の12月頃の平日、朝一番で妻と2人で観に行きました。

上映当時は、まだ話題になったばかりの頃で、メディアでもそこまで取り上げられていませんでしたが、映画の口コミがとても評価が高かったのが観に行く切っ掛けでした。一般的な層に大人気だった作品、「君の名は」の上映も、その年の8月か9月頃で同時期の映画でした。
映画を観た感想
映画はその後、数回観ましたが、最初に観た時と、後から観た時で、印象が変わってきます。ハリウッド映画のように、楽しませるための盛り上がり所や、見せ場は少なく、心に響くシーンも少なめでしすが、淡々と戦時中の生活を描いている事と、当時の生活や人々の気持ちなどが本当に丁寧に描かれており、1つの映画に沢山の思いが詰まっている作品といった感じでした。
細かなシーンについては、まだ観ていない方もいると思いますので言えませんが、シーンの細部の作り込みが素晴らしいと思います。例えば、当時の生活に関する、一つ一つの作り込みが、忠実に作られており、隣組や憲兵、戦艦、そして戦闘シーンでは、史実に基づいて、空中で爆発する爆薬に色がついていたり、爆発の音など、本当の音を再現しており、恐怖を感じるほどです。
それに反して、生活は、段々と戦禍が厳しくなる中で、食料が少なくなり、毎日の食事に野草や様々な工夫をする普通の人達の生活を写しています。そして、その中で生活する人たちが、今の身近な人達となんら変わらない、普通の人達であること。厳しい中でも明日を行きていくために皆明るく、笑顔が多く、その明るさは戦中であることを忘れるほどです。
しかし、戦争の悲惨さも伝わってきます。物語の終盤では、不覚にも泣いてしまいました。
心理描写もたくみです。その時代の情勢や史実を知った上で見るとさらに物語の深さを感じます。
作品の制作に関しは、パンフレットや、スペシャル番組、インターネット等で、解説を見ましたが、監督の片渕 須直氏のこだわりは凄まじく、失われてしまった広島の景色を出来る限り忠実に再現する、途方もない努力がなされているそうです。街並みの様子は、写真や資料だけでなく、当時を知る、存命の方に何度も取材し、建物の細部まで、実際のものを再現しています。その中でも、実際に存在していた店舗やそこで生活していた家族の一人ひとりも、描いているという徹底ぶりです。
また、原作者である、こうの史代氏も、物語に並々ならぬこだわりを持って作られているそうです。絵の表現方法の独特で、漫画で良く使われる、“スクリーントーン”を極力使わない作風であったり、コマ割りなどに独自のこだわりで作られており、何度も読み返すと素晴らしい作品である事がわかる作り込みが随所になされていますので、是非購入してご覧いただけると良いと思います。
この漫画は、漫画アクションで連作された作品で、連載中、物語の話の年月と、連載の年月がリンクするように作られていました。(アニメーションでは年月のリンクについては変更されたようです)そういった作りで、あの最後のシーンまで描ききるとはすごい事です。また、漫画では、映画では描き切れていない出来事が描かれています。上中下巻でコミックスが発売されています。

映画の制作や上映について
この作品は、元々低予算で制作した映画で、上映は63館だけの小規模上映予定だった所、口コミで人気に火がつきはじめ、50館、200館と、日本全国で上映依頼が殺到し、さらには世界中での上映までに広がるロングランのヒット作品となった作品です。
上映当初、予算が少ない事により苦労したそうですが、クラウドファンディングで約3900万円を集め、上映にこぎつけた作品です。また、海外上映のため、追加でクラウドファンディングを行い、多くの資金が集まったそうです。

▲クラウドファンディングの出資者には、上記のすずさんからの手紙が届いたそうです。
また、出資された方の名前は、映画のエンディングロールに掲載されました。
映画館で、パンフレットを購入しましたが、シンプルでデザイン的にも好感の持てるデザインです。中身は、物語の舞台である呉(くれ)の情報や先に書かれた、制作のこだわりについての情報等も掲載されています。


パンフレットもこだわりの作り込みですので、購入の価値ありです。

▲裏面には可愛いすずさんのイラストが入っています。
そして、現在、「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」という、この映画の長尺作品(完全版)が公開しています。すでに、かなり前から全国で上映されており、現在は一部の映画館でしか見ることが出来ません。
最後に
物語全体の総評として言えることは、その作品の素晴らしさもあるのですが、細部に盛り込まれたこだわりです。これにより、何度も見返す事で、違った見え方や物語の奥深さを知ることになり、その他の情報を調べてから見ると、さらに理解が深まっていく点です。視聴者を楽しませる事が目的のエンターテインメント的な所よりメッセージに重きを置かれているため、面白いという評判だけで見に来た人は、あまり高い評価をしない方もいるようです。この作品は、その内容や意味、自分の生きてきた時間や、自分のルーツである普通の日本人について共感し、その生活を理解する事で、さらに感動が込み上げてくる作品だと思います。
戦争が悲惨であることや原子爆弾の恐ろしさなど、これまで様々な作品で知っていますが、その時代に実際に行きてきた人を、出来るだけ鮮明に描いて、現在の人たちにとって身近な存在にし、戦争を普通の人として仮想の体験が出来るという作品だと思います。また、その人達は、私達の祖父や祖母、さらに上の世代の人で、その人達が生きていた事で、今の日本や自分の命も存在していて、確実に戦争が自分の身近にあったという事を考えさせられました。
現在でも、戦争についての恐怖や恐ろしさを実感として感じていない人たちが多くいるように思います。そういった人達が、戦争を肯定し、同じ過ちを犯さないよう、次の世代へ続いていく作品を残していく作業は、とても大切で、そういった作品を大切にしていくのも私達が出来る小さな行動だと思います。
第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞
映画:この世界の片隅に/この世界の(さらにいくつもの)片隅に
■スタッフ
監督/脚本:片渕須直、原作:こうの史代、音楽/主題歌:コトリンゴ
■キャスト
北條すず:のん、北條周作:細谷佳正 他
編集後期
本日は、8月9日で、長崎に原爆が落とされた日でした。テーマの映画では、広島ですので2日違いますが、戦争の終わりの頃、何があったのか、を描いた作品です。
丁度、NHK総合で、この作品が放送されていたのを久しぶりに観ました。元々今日は他の記事を書く予定だったのですが、この記事は今日書くべきだと思って記事にさせて頂きました。
まだ知らなかった、観ていなかったという人は、是非見て欲しい作品です。本日のテレビ放送は残念ながら終了してしまいましたが、DVD等で見ることが出来ます。連休の最後に是非ご家族で映画鑑賞してみませんか。
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代表 大津山 倖雄
クリエイティブディレクター
アートディレクター
Webディレクション、イラストレーション他、専門学校講師
1973年生まれ。福岡市で広告企画・制作に携わり30年以上。大手広告代理店の下請け会社で、グラフィックデザイナーを経験。その後、福岡の制作会社や広告代理店勤務を経て、平成18年4月に退職し、19年には個人事務所として独立。同時期、福岡デザイン&テクノロジー専門学校(旧 福岡コニュニケーションアート専門学校)にて講師契約。現在は、グラフィックデザイン、イラストレーション、WEBデザイン、WEBマーケティングに携わり、様々なクリエイターと共に制作を中心に業務を行っている。